全梗概感想(予定)ここまでだいたい半分

またかよ。な全梗概1/2くらい

もうね、どこにもわたしの梗概感想なんて需要がない気がします。

かなりたいへんなんですよ、梗概をそれなりに読み込もうとすると、さらに無い文章力で、適当にごまかすのも、しんどい。でも書いているうちに、あったこともない、みなさんのことが、我が子のように感じてきて、それどころか、この4期SF創作講座って、わたしが育てているのではないかと思って仕方ありません。

きっとこの中から出てくるでしょう、日本のSFを背負ったり、抱かれたりする人のことを、「ああ、この人はわたしが育てたのよねえ。」と思わせてください。はい。もうね、そのくらいの度量と器量でわたしのぐたぐだ感想を読んでください。

でも、あまりに反応がないので、残りの感想を書けるか、不明です。【さびしんぼうかよ!】

 

小島 夏葵:完熟

わたしが、SFかSFでないかなど、恐れ多くていえませんが、この物語の流れは、まったくSFと関係ないようにも思います。が、SFであるかとは、おいてみれば、この物語の書き方は、とても熟れていて、最後のカタルシスも見事だと思いました。

「熟れた毒ヤシを定期的に食べ体に毒を入れ、軽微な身体不調と引き換えに「美食家」なレムレースの捕食を避ける。」
という設定は、洗練されているし。
アネモネの関係。ソテツへの暴力。大人文学度も高いです。
さらに最後の段落の全ての出来事は、総論として、濃いドラマとして、成功しているように思います。
と書くも、その最後に少し分からない点がありました。

アネモネの投げた浮きは師匠に届かなかった。もしくは、届いたかもしれないが、レムレースに食べられてしまった?
また、ソテツは海の中、毒ヤシを食べた途端「すぐに」毒が体中にまわって食べられなかったということ?
「ソテツは海中の鉄柵の鍵を外す。」とあるのは、自分も死のうとしたけど、偶然毒ヤシがおちてきた?
もし、自分も死のうとしたとしたら、その理由が、よくわからなかった。いや、それはわからなくてもいいと思いつつ。こういう疑問が自分のことは差し置き、ふつふつとわくようになってきました。もちろん、全くSF梗概らしくないけど。まあ、それはいいのかもしれません?

 

【そしてここから先頭(感想会出席者は別頁)】

天王丸景虎 山を育てる

山を育てるというイメージはとても面白く惹かれました。

土砂を使って山を育てているおじいさんもいいと思いました。前回もログラインは素晴らしいと思ったのですが。たぶん、梗概の選出でなく、ログラインで選出だとしたら、天皇丸さんの作品は毎回選出されているのではなかというくらい、引きはいいと思います。

ただ、その物語の頭から最後までの流れが、わたしにはすんなり読めずに残念です。しかし、ラストはラストで、また決まっているので、もしかしたら、1200字に削るところで、いろいろ無理が出てしまっているのかもしれませんね。

たぶんわたしより、天皇丸さんの方が小説を書き慣れていると思うのですが、ここ数ヶ月、実作までいかない癖が、何か、ログラインや梗概に拘りすぎているのではないでしょうか。

一千の梗概より、一作の実作というように(ソースおれ)、あまり梗概で選ばれることを気にせずに、実作を書いてください。心の三顧の礼です。お願いします。

 

吾妻三郎田 趣味人の六日間

この梗概は相当読みにくかったのですが、相当読み直すと、相当面白いのでした。

いや、この文章は相当だめでしょうと思うのですが、いろいろ脳内変換すると、どこまで作者の狙いかわからないけど、面白みに満ちている。

あっさり乗組員の田中君(いい奴)を殺して、「ちょっと後悔」する加山君。

そして、いろいろあって、「田中さんも『満更でもなさそう』である」

最後の一行が面白いのかどうか、わたしもよくわかりませんが、きっと面白いはず。SFではない面白みだけど。

 

藤 琉 成獣式

これは素晴らしい。梗概というより、2000字のショートストーリという体で完成されていると思いました。きっと、梗概選手権には、勝てないと思う、まるで本編のような表現。下手すると、そうとう奇妙な言葉の羅列になってしまうところを、藤琉さんの、詞のような言葉の選び方、使い方は完成されていると思います。

ただ、このSF創作講座で選ぶ人にとって、この表現は受けないような気もします。なんてことも、もちろん藤琉さんは、認識した上で提出されてきたのかと思うので凄い。2000字ぴったりになっているのは、もしかして、1200字制限を単に2000字制限と勘違いしているだけな気もする、そんな風に思えさせるくらいすごい。

 

甘木零 エフェメラの輝き

甘木さんのストレートなメッセージを感じました。全編SF小説の梗概になっているのですが、梗概の読後に感じるのは、ここでは、「育てる」がテーマでしたが、前回の「正義とかヒーロー」にも通じるような、メッセージがとても気持ちよかったです。そしてラストの「街中の電飾が狂った文字を流し色彩を踊らせた。電飾には蜉蝣エフェメラが群がり、一日だけの命を尽くした。」は、梗概のこの短い一節を読むだけでも、ため息をつく美しい絵をイメージできました。

 

中倉大輔 優しく安らかなクビ

面接をしていた男が楡壮太であったという落ちは、面白いのかどうか、鈍いわたしは、こういう流れが苦手なのかもしれません。ただ、この長さでまとまってしまってみえて、そのやりたいことリストを、具体的に長く伸ばせても、やはり、最後の根本と男の面接で終わるという流れが終わりであれば、あまり話が延びないような気もするのですが、あるいは梗概で削った箇所に何かがあるのかも。と思ったりしました。

 

古川桃流 ショートカット

古川さんの梗概で、わからないわからないと言ってしまうのは、かなりわたしの読む側に責任があるのかと思います。そして、恥ずかしながら、わからない点、1.繰返し演算。これは、プログラム上で同じ演算を繰り返すということなのでしょうか。「宇宙が繰返し演算の対象」という使い方だと、何かやはり、「繰返し演算」という語彙にwikiにも載らないような、一般的な意味があったのでしょうか?

その2.「その後も助手は体験した既視感について」の助手の既視感というのが、この物語ではどういうことなのか、わかりませんでした。たぶん、「演算結果を保持・再利用するプログラムを書いた気がすると言った」も、その既視感だと思うのですが、つまり教授の論文は助手の既視感によるものだった。とすると、それがこの話でどう生きているのかが、よくわかりませんでした。また、「生態系だけでなく宇宙を演算するのはいつですか?」というのも助手の既視感ですよね。「助手の既視感は以前の宇宙の体験である、という仮説に基づいて、自説を助手に教え込むようになった」ここが全く分からないのが、自分でも致命的だと思います。「以前の宇宙の体験」って、何だろう?助手自身が、宇宙で体験したことなのでしょうか?そして、最後の一段落は、時系列として、この物語の最初の段階と考えていいのでしょうか。

などなど、後半の三段落が、わたしには謎な三段落となっているのです。理解できていないのが、わたしだけのような気もします。

 

榛見あきる 箱庭ヘテロトピア

こんな突っ込んだ描写の梗概があるとは思いませんでした。冒頭のうそ年表が格好良くて、すぐに世界観を際立たせている。そして、大がかりな背景で、行われる研究が「遊郭奥座敷で、愛と性と意識あるいは無意識──心」なんですよ。ここら辺の史実と虚構の混ぜ具合は、とても効果的で面白いと思ったのですが、中身がかなりわからなかった。これもまた、問題はわたしの読解能力が原因だと思います。

箱庭ヘテロトピアという言葉は榛見さんの造語だと思うのですが、ヘテロピア自体が、聞いたことがあるようなないような言葉だし、フーコーの「ヘテロピア」の説明を読んでもよく分からない。ただ、この梗概では、異望郷にヘテロトピアというルビが振ってある。あれ?そういう意味?あれ、でも異望郷ってなに?望郷(故郷を思う)とは異なる場所?これも造語?そして、いろいろ不明なまま、「先生。僕たちは、死ということがわからない。演ずる人が変わっても炯は炯だし」「昂は昂だ」「誰かが僕らを求めてくれるかぎりは」『私』は筒状の装置に炯を寝かせ、河瀬教授は装置を起動させる。

は、何か気が利いているような説明のような、わかったような気にはなれるのですが、「それでも私は、その計算機と化した人間の──性と遺伝子に拘束されたヒトの、幸福を探したいのですよ。個人の心に意味があると、析いのりたいのです」ここが、理解できませんでした。もちろん、最後の「42」も。

アピール文に書かれた「利己的な遺伝子」は、きちんと読んで、読んだときも結構、この人間は「乗り物」にすぎなくて・・みたいな話を嬉々としたり、その統治は、何でも「利己的な遺伝子」のせいにする。という文化もあったような。そんな程度はわかっていても、今回の榛見あきるさんの梗概は難しかった。

 

広木素数一 星群(ほし)のかたぴら

出だして、ああ本格宇宙物SFかと期待すると、そうではなくて、アピール文にそっけなく書かれた、ほぼその一行通りの物語でした。

宇宙である必要があるのかというと、あるような気もしますが。やはり、ここでもよくわからないのが、ロボがタニギへ秘密を明かしたことで、どうやらタニギは、反逆の疑いがあるとされて、虫毒を投与されたのであれば。

なぜ、当のロボは何もお咎めが無かったのだろうか。ロボ自身も、自分の秘密がタニギにばらされたと思って、計画を早める。というのは、なぜ、そもそも肝心のロボを放っておく?という疑問をもちながらも、ロギは、「戦禍に荒れ果てた惑星へ降り立つ。」ってしまっているので、実作を期待します。

 

式 「あなたが生み落としたのは金の斧の文明ですか?」「それとも銀の斧の文明ですか?」

タイトルになっている、この魅力的な出だしで始まる。でも、話があまりに大きくなりすぎて、この最初の出だしが、必要であったのかとすら思えてくる壮大な話でした。ただの言葉遊びだったのだろうか。

たとえば、「斧に似た道具である鎌を落とすことを二人は期待していた。だが老人は鎌ではなく「砂時計」を落とす。二人は落胆したが、めげずにそれを金と銀に変化させる」の一節で、なぜ鎌と思わせるフェイント?老人はギリシャ神話のクロノスの意味もあったのかもしれませんが、だとすると、尚のこと梗概部分だけだと、イソップから神話に?と思ってしまいました。イソップ神話の女神が、時間を戻そうとするのは、面白いのですが、そこから、まさしく作者の思うままの、カオス世界へ。ここからの世界の流れは、わたしは、とても好きです。ええ。わたしは。でも、この梗概の文だけでは、たぶん多くの人がひいてしまうのではないかと勝手に想像します。あ、女神が斧をもいちど、欲しかったから、最初の斧の話?でも、これだけ、大きな話に、女神の斧がつけたしのような気がしないでもありません。神が死んだという終わり方は素敵ですが、ちょっと実作を読んでみないと、面白いのかどうか、わからない匂いもあります。勝手に式さんの呟きを眺めたり、いままでの実作を読むと、大風呂敷を広げた文体、たとえば生きている人なら、ニール・ゲイマンの神様の話や、天使と悪魔の闘いのような、文体で人の頬をパチパチ叩いてくるような押しの文章があれば、わたしを含めた、けっこう多くの人は式さんの世界について行くはず!まとめると、式さんの書く物語は、梗概だけだと分かりづらいということですね。

 

岩森応 重層惑星

岩森さんがいままで出してくる道具は個人的にかなりの壺でしたが、今回こんな道具が出てくるとは思いませんでした。教えてもらった好きな漫画も相当でしたが、「孟嘗君を写経した」というのに、密かに恐れを感じています。こわくて、突っ込んで聞けませんでしたが、「宮城谷」作品を写経するというのは、ああいう。いや省略。いままで、失礼極まりない、他の人の梗概に「わからないわからない」を連発していましたが、これは、わからないからいい。と言わざるを得ません。いや、岩森さんの解説本がほしいくらいな、妙な物が妙なことをする物語の梗概ですよ。一部には、知らない言葉が出てくるも、その周りを囲んでいるのが、よく知っている姿形の物なので、わたしは、くいついてしまいました。もしかしたら、実作では、これらぼんやりとした姿や動きがつかめなかった範囲も、アピール文を読むと、すっきりしてしまうのかもしれませんね。恐ろしい。

今はよくわからない、「トリプルビニールが宇宙外へ旅立つ」というラストが、実作を読んで、実際に歓喜に浸れるようになりたいものです。

 

大塚次郎 そして馬になる

いつも、大塚さんの梗概を読むと、「すごい感」と「負け感」に浸ります。あまり、大塚さんの梗概はとりあげられていないようですが、何か背景がすごい人。のような気がします。でも、今回は用語の使い方から、文系の人っぽくて少し安心。そして今回も、梗概だけでは、この設定の面白みが伝わらないだろうとも思います。ここも、あっさとした、アピール文「実作の際には、沙村広明の短編のような雰囲気が出せればと思っている」の、いやほんと、沙村広明調の小説を書ける人がいれば、すごいことだと思います。ぜひ実作をお願いします。

 

一色 光岸 四畳半のif

一色さんの梗概は、毎回読みづらいけど、少し奇妙で、しっかりとした世界が構築されて、驚きます。今回も一色さん世界を堪能できました。たぶん一色さんの梗概も、他の人の書き方と違って、梗概なのに一部助長で一部説明抜けがあるので、アンバランスな感じがあるのかもしれません。

それでも、今回の梗概で作られた世界は、滅法変わっていて面白いです。最初の設定から、どんどんわたしが、仮定で考え出していき、「私だったかもしれない私と私の意識を持つ私を比較している私を観察する私」が存在するのです。」っていう、強引でもあり、自然でもある流れ。ただ、梗概だと、殆どがわたしの思索になっているので、これが一万~二万字にどうなるのか、まったく想像もつきませんが、もうずっと、わたしの脳内思索物語でもいいような気がします。アピール文には、推敲して気になった点があげられていますが、わたしは、寧ろその説明はない方が面白いような気がします。が、そんな意見は、少数派だと思いますし、こんかいの一色さんの書かれた梗概は100%SFだと思います。ぜひ実作を書いてみてください。

 

武見 倉森 文芸部機関

今まで何度も何度も使ってきた言葉ですが、今回はここまでで、一番大声で怒鳴りたいですよ。「えすえふじゃないじゃん!!」まあ、全然わたしは構わないのです。唯一、わたしがSF的な匂いを感じられる箇所が「星新一賞」でしょうか。武見さんも全て確信犯で書いていると思うのですが、そうすると、何の確信なのかも不明ですが。ラストの「事実、面白いので……」と謎の方向で物語を決着させていますが、いや、アピール文を読むと、本気でこの文芸部の世界を書きたかったようなので。すごい謎な梗概であるがために、そこが惹かれます。