遠野よあけさん 「カンベイ未来事件」を読んだよ 

昨日宇部さんが書かれた、「遠野よあけさん カンベイ未来事件」の感想で、「化け物じみたものを読まされてしまった」は、なんて大袈裟なと思ったり、またその後ろに書かれた理由を読む限りだと、そういう方向での「化け物じみた」かあ。と椅子の背を押して天井を見るくらいだったのですが。

寝る前に、読んでおこうと、「18日0時」に読み終わったのですが、わたしは宇部さんと多分、「全く違う意味で」、遠野さんの「カンベイ未来事件」が一番だと思いました。

ダールグレンラジオは、基本梗概選出対象の実作だけを取り上げるのが残念ですが、この遠野さんの実作を読むと、今回は遠野さんの作品に語られないのは信じられない。と、わたしも、まだ実作も全部読み終わっていないのですが、選出の三つと、感想会出席者の実作を読ませてもらった中では、東京ニトロさんの「FLIX!!」が一番面白かったし、東京ニトロさんが、きちんと校正さえすれば、毎回選出されるのでは。というくらいの印象だったのですが、遠野さんの作品は全く違う角度で、素晴らしかったです。

いつも、一日で書いたというような発言をされていますが、いや、これは、相当プロットを書かれたのではないでしょうか。わたしが、いままでSF創作講座では、みたことがない、コラージュのような手法で、それがどれも効果的に書かれているのに、驚きました。

たしかに、これだけの熱意をもって、凝ったプロットを書けたのも、遠野さんが現実の事件にインスパイアされての力だったのかもしれませんが、そこをおいといて、過去、現実、未来が見事に折り重なっていると思います。

過去とは言え、実際には、それも現在を生きているわたしたちにとっての未来ではあるのですが、その記述がとても面白い。村上春樹、火、正義という火を手放す決断、そして、「21世紀前半で亡くなった村上が知る由もないこと」が、うまい。ウイルスの件は個人的には、ごにょごにょですが。

「社会の多数派はその停止したユートピアに順応した。

 かつて根絶治療に反対したわずかな少数派も、違和感をもちながらもこの新たな時代を受け入れざるをえなかった。

 オカルティックロマンは、そのような少数派によって支持を得ていた。

 前世紀にオカルトへと熱をわかせていた人びとのごとく、彼らは失われた人類の遺物に想いを馳せた。

 その想いは、2077年壱岐島火災を引き起こすこととなる。」という流れは、面白く。え?どういうことで、2077年にと思うわけですよ。

で「火子計算機」ですよ。遠野さんの造語だと思うのですが、まず火子計算機が、古代のカンベイ湾古代遺跡にあったらしい。という登場させ方。ただ、ニック・ボストロムのシミュレーション仮説と、この火子計算機の具体的なイメージがわかないけど、何か面白いわあ。

◇人類が〈正義〉を手放した歴史の年表も面白い。

そして、本文とまた違った角度の意味を持つ章タイトルも、いちいち格好いい。

と、興奮したままの感想を書いてしまいましたが、実は格好いいと思った「火子計算機」も、「シミュレーション世界」というのが、整合とれているのか、最後にはわからなくなりました。

3部はまた、未来の物語という体をしつつも、遠野さんのメッセージと読めるのが面白い。ただ、それがこの全体の締める言葉になっていたのか、「その意味がいつか僕たちにもわかるときがくるかもしれない。」という何かアニメか特撮のラストのような締めが、勝手にちょっと「えー」って思いました。

なとど勢いでディスってしまいましたが、今回の白眉ではないでしょうか。もし、今回選ばれなかったら、ぜひ、「どうして、わたしのが一番ではないのですか?」と大森さんへ突っこんでください!

個人的にも、たくさん刺激をもらいました。ありがとうです。